RAID構成のバックアップの不完全性

RAID (Redundant Array of Independent Disks) はディスクドライブの信頼性やパフォーマンスを向上させる技術ですが、バックアップの代替とはなりません。あくまでも冗長性を高めるためのハードディスクの構成です。また、データ障害が発生することもありますが、RAID崩壊やリビルドの失敗などさまざまな障害があります。以下にRAIDへの理解が深まるようにRAID構成について解説いたします。

RAIDの利点と限界

RAIDにはいくつかのレベル(RAID 0、RAID 1、RAID 5、RAID 6、RAID 10など)があり、それぞれ異なる方法でデータの冗長性やパフォーマンスを提供します。

  1. RAID 0: ストライピング技術を用いてデータを複数のディスクに分散します。パフォーマンスは向上しますが、冗長性はなく、1台のディスクが故障すると全てのデータが失われます。
  2. RAID 1: ミラーリング技術を用いて、データを複製し、2つのディスクに同じデータを保存します。1台のディスクが故障してもデータは失われません。
  3. RAID 5: パリティ情報を含めてデータを複数のディスクに分散し、1台のディスクが故障してもデータを再構築できます。
  4. RAID 6: RAID 5の拡張版で、2つのパリティブロックを使用し、2台のディスクが故障してもデータを再構築できます。
  5. RAID 10: RAID 1とRAID 0の組み合わせで、ミラーリングとストライピングを同時に行い、パフォーマンスと冗長性の両方を提供します。

RAIDとバックアップの違い

RAIDは高可用性とデータの冗長性を提供しますが、バックアップとは異なる概念です。RAIDがデータの可用性を高める一方で、以下の理由によりバックアップとしては不十分です。

  1. ユーザーエラーやソフトウェアの問題: RAIDはディスク障害に対する保護を提供しますが、ファイルの誤削除やソフトウェアのバグ、ウイルス感染などには対処できません。これらの問題によってデータが破損または失われた場合、RAIDは役に立ちません。
  2. 物理的な災害: RAIDアレイ全体が災害(火災、洪水、盗難など)に見舞われた場合、すべてのデータが失われる可能性があります。バックアップは物理的に別の場所にデータを保存することで、こうしたリスクに対する保護を提供します。
  3. データの復元: RAIDはディスク障害時のデータアクセスを維持するためのものであり、過去のバージョンのデータを復元する機能はありません。バックアップは、特定の時点のデータ状態を保存し、必要に応じて復元することができます。

1. データ削除や上書きに対する脆弱性

RAIDはハードウェア障害に対する耐性を提供しますが、人為的なミスやウイルス、マルウェアによるデータ削除や上書きには対応できません。バックアップは異なる場所に保存されるため、これらのリスクから保護されます。

2. 災害復旧の欠如

RAIDは同じ物理的な場所にあるディスクを利用するため、火災、洪水、地震などの災害に対して脆弱です。バックアップは異なる地理的な場所に保存することで、災害時のデータ保護を確保します。

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3. RAIDコントローラの故障

RAIDシステム自体が故障した場合、すべてのデータにアクセスできなくなるリスクがあります。バックアップがあれば、RAIDコントローラの故障時でもデータを復元することが可能です。

4. データの整合性の問題

RAIDはハードウェアの冗長性を提供しますが、ファイルの整合性チェック機能が不足しています。データが徐々に破損することがありますが、バックアップシステムはデータの整合性を検証し、破損したデータを修復することができます。

5. ランサムウェア攻撃

ランサムウェアはシステム全体を暗号化し、アクセス不能にすることがあります。RAIDだけではランサムウェアに対する対策が不十分ですが、オフラインバックアップを定期的に行っていれば、被害を最小限に抑えることが可能です。

6. システム全体の障害

RAID構成の一部が故障する場合でもシステムがダウンすることがあります。バックアップがあれば、システム全体がダウンしても迅速にデータを復元することができます。

システム部やファイルシステムの障害について

データアクセス中に突然電源が切れるなどのトラブルが発生すると、RAID構成を管理する(OSなどの)システム領域が破損したり、ファイルフォーマットの構造情報が損傷することがあります。こうしたリスクは、一般のパソコンや外付けHDDでも同様ですが、データ復旧の難易度は大きく異なります

HDDが1台のみのシングル構成(一般のパソコンなど)の場合、システムの自動修復機能を利用したり、別のOS環境からアクセスを試みることで、比較的速やかにデータの復旧ができるケースがあります。しかし、RAID構成では、データがHDDごとに細かくスライスされて分散保存されているため(構成によっては並び順も複雑)、復旧時には元のRAID構成を正確にシミュレートしながらアクセスする必要があります。

そのため、RAID構成のデータ復旧は高度な知識と専門技術を要する作業となり、書き換えなどの処理を行う際には、事前にデータ復旧企業へ相談・確認することが推奨されます。また、元のHDDを新たなRAID構成のシステムに直接接続しても、元のRAID構成が自動的に読み込まれるわけではなく、逆に新しいRAIDとして再構築や初期化が行われる可能性があるため注意が必要です

RAIDの運用上の注意点

縮退運転(縮退運用)

冗長性を持つRAID構成では、構成するHDDのうち1台が破損しても、残りのHDDだけで動作を継続できる機能を備えている場合があります。この機能は**縮退運転(縮退運用)**と呼ばれ、システムのダウンや緊急停止を防ぐという大きなメリットがあります

通常、縮退運転が開始されると、メッセージの表示やランプの点灯などによって警告が伝えられ、ユーザーは余裕のあるタイミングでシステムを一時停止し、縮退運転を解消するための交換や修復を行うことが期待される機能です。

しかし、縮退運転中であっても、ユーザーの通常利用には大きな影響がないため、そのまま使用を続けてしまい、別のHDDが故障したことでシステムが完全にダウンし、データ復旧が必要になるご相談がデータスマートには多く寄せられています。

縮退運転中のRAIDは、冗長性が失われた状態であり、HDDの台数が多いほど故障リスクが高まります。そのため、別の障害が発生する可能性が非常に高く、さらに連続して何らか障害が立て続けに発生した場合には、データ復旧が困難になるというデメリットもあります。

近年ではRAIDの導入コストが大幅に下がり、非常に安価で手軽に構築できるようになりましたが、導入の際にはマニュアルや設定を十分に確認し、適切な運用を心がけることがポイントです。

ウイルス感染や誤削除によるデータ損失

RAID構成であってもデータの誤削除、ウイルス感染、ファイル破損といったリスクは、一般のパソコンや外付けHDDと同様、いつ何時、損失に繋がる障害と隣り合わせです。

また、このようなトラブルからのデータ復旧を試みる際にも、RAID特有のデータ分散構造により、シングルディスクの環境よりも復旧の難易度が上がるというデメリットがあります。

そのため、RAIDを運用する際には、定期的なバックアップを確保し、万が一のデータ損失に備えてシステムを構築することが不可欠です。

まとめ

RAIDはシステムの可用性とパフォーマンスを向上させる優れた技術ですが、それだけではデータ保護の観点からは不十分です。完全なデータ保護を実現するためには、定期的なバックアップが不可欠です。バックアップは異なる場所に保存し、データの一貫性を保ち、災害やセキュリティリスクからデータを守るために重要です。RAIDとバックアップを併用することで、データ保護の層を厚くし、より安心してデータを管理することができます。

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