記録媒体の歴史

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目次
世界最古の記録媒体とは
人類が情報を記録した最古の手段として知られているのが「洞窟壁画」です。原始時代の人々は、洞窟の内部に動物や人間、手形などの絵を描き、当時の生活や信仰、自然環境などを後世に伝える手段としていました。
現在発見されている中で最も古いとされる洞窟壁画は、フランス南部アルデシュ県にあるショーヴェ洞窟のもので、約3万2000年前に描かれたと推定されています。
また、スペイン北部カンタブリア州にあるアルタミラ洞窟の壁画も非常に有名です。こちらは約1万8000年~1万年前、いわゆる旧石器時代の末期に描かれたとされています。
このように、洞窟壁画は人類が残した最古級の記録媒体として、歴史的・文化的に極めて貴重な遺産となっています。
文字の誕生
文字が初めて誕生したのは、紀元前3000年以前の古代メソポタミア時代とされています。この時代には、粘土板に棒状の道具で刻みつける「楔形文字(くさびがたもじ)」が使われていました。
この楔形文字による記録の代表例として有名なのが、「目には目を、歯には歯を」で知られるハンムラビ法典です。これは紀元前1755年頃にまとめられたとされており、現存する石碑は高さ2メートルを超える石柱(せきちゅう)で、本文は楔形文字で282条にわたり刻まれています。この記念碑は現在、フランス・ルーブル美術館に所蔵されています。
さらに、紀元前2500年ごろには古代エジプトでパピルスが発明されました。これは、カヤツリグサ科の植物の地上茎内部の繊維を利用して作られたもので、軽くて持ち運びやすく、記録媒体として広く普及しました。現代の「紙(paper)」という言葉の語源ともなっています。
紀元前2200年ごろ、現在のシリア北部にはエブラという都市国家が存在していました。この都市の遺構からは、楔形文字で記された多数の粘土板が発掘されています。これらは世界最古の図書館ともいわれており、非常に古い時代から人類が記録と保管を行っていたことを物語っています。
ただし、当時使われていた記録媒体にはそれぞれ課題もありました。粘土板はサイズが大きく重いため、持ち運びや保存には不便さが伴いました。一方で、パピルスは湿度に弱く、乾燥した地域でなければ長期間の保存が難しいという特性がありました。
こうした制約を補うかたちで、紀元前1400年以降には木簡・竹簡、羊皮紙などの新たな記録媒体が登場します。
木簡や竹簡は、木や竹を細長い短冊状に加工して作られたもので、軽量で小型という利点から粘土板やパピルスに比べて使い勝手がよく、長期間にわたり利用されてきました。日本においても、奈良時代まで使用されていたことがわかっています。
また、羊皮紙は動物の皮を加工して作られた媒体で、パピルスの入手が困難な土地や、湿度が高くパピルスの保存に適さない地域で用いられていました。
紙と鉛筆の誕生と伝播
紀元後2世紀初頭の中国では、現在の紙の起源ともいえる**漉き紙(すきがみ)**の製法が確立されました。これは繊維を水に分散させ、薄く広げて乾かすという方法で、従来の竹簡や木簡、絹などに比べてはるかに軽く安価で大量生産が可能だったため、急速に普及していきました。
この製紙技術はやがてシルクロードを通じて西方へと伝わります。その大きな転機となったのが751年のタラス河畔の戦いです。この戦いは、中国・唐とイスラム勢力であるアッバース朝との間で、中央アジアの覇権をめぐって行われたものでした。戦いの結果、唐軍は裏切りなどもあって敗北し、多くの兵士や技術者が捕虜となりました。その中に製紙職人が含まれていたことから、製紙法がイスラム圏へと伝わる契機になったとされています。
ただし、ヨーロッパで紙の製造が本格化するのは12世紀以降であり、それ以前は羊皮紙などが主に使われていました。イスラム世界では、バグダッドやサマルカンドなどの都市で早くから紙の生産が始まり、行政や学術に広く活用されました。
印刷技術の発展と鉛筆の登場
日本では8世紀ごろに木版印刷が行われるようになり、さらに13世紀ごろには中国で活版印刷が始まりました。これらの技術はやがて西洋にも伝わり、15世紀後半にはヨーロッパでグーテンベルクによる近代的な活版印刷技術が確立されます。これにより、印刷が商業的に展開され、知識や文化の大衆化に大きく貢献することになります。
一方、筆記具の進化も続いていました。16世紀末ごろには鉛筆が誕生します。当初の鉛筆は、鉛と錫の合金を芯として木軸で包んだ構造でしたが、後にイギリスのカンバーランド地方で黒鉛鉱が発見されたことで、現在の鉛筆と同じく黒鉛を芯に使う形式が確立されます。この発見により、より滑らかに書ける鉛筆が普及していきました。
日本でも、伊達政宗や徳川家康が鉛筆を使用していたという記録が残っており、輸入品として一部の武将や知識人に親しまれていたことがうかがえます。
なお、初期の鉛筆は芯が四角形で軸は八角形のものが一般的でした。また、鉛筆の使用が始まってからもしばらくは消しゴムが存在せず、1770年ごろにようやく消しゴムが発明されるまでは、古くなったパンなどを使って筆跡を消していたとされています。情報を消去する時は燃やすことが多かったのではないかと思います。消しゴムは現代で言う消去ツールですが、たしかに完全に消去することは非常に難しいですので、当時は物理的に消失させていたのだということだと考えられます。
紙以外のさまざまな記録媒体
1840年代には、木材パルプを原料とした紙の生産技術が確立され、印刷用紙の大量生産が可能になりました。さらに、1846年には輪転機が発明され、新聞の印刷が始まります。これにより、情報の記録と配布が格段に効率化されていきました。
一方、19世紀に入ると、紙や鉛筆だけではない多様な記録手段が登場しはじめます。
パンチカード
パンチカードは1801年に登場しました。厚紙に穴をあけ、その位置や有無によって情報を記録・読み取る仕組みです。この方式は織機の制御や、自動演奏オルガンにも使われており、後に初期のコンピュータでも入力装置として利用されるようになります。1970年代まで使用されていた実績があります。オルガンに使われたパンチカードについては、Wikipediaの「自動演奏」のページにも掲載されています。
写真
1820年には世界初の写真が撮影されましたが、当時は露光時間が8時間以上かかり、実用には不向きでした。その後、1839年にダゲレオタイプ、1841年にはカロタイプという新しい手法が発明され、特に複製が可能なカロタイプが広く普及しました。さらに、19世紀末から20世紀初頭にかけて、乾板からフィルムへと技術が移行し、写真撮影がより手軽で広範なものとなっていきます。
レコード
1877年にはトーマス・エジソンによって音を記録・再生する装置が発明されました。当初のレコードは円盤ではなく円筒形のメディアで、音の強弱を溝の深さで記録する形式でした。音声を物理的に記録するというこの技術により、音楽や会話などの記録が可能になり、音響メディアの重要な出発点となりました。エジソンの円筒形レコードについては、「UEC コミュニケーションミュージアム」の資料でも確認することができます。
補足:電気を利用した記録技術の登場
19世紀後半には、記録媒体に電気的技術が加わるようになります。トーマス・エジソンやグラハム・ベルらによって、録音や電話の技術が開発され、音声をリアルタイムで伝えたり保存したりする手段が生まれました。こうした動きは、のちに磁気テープやレコード、さらにはデジタル記録メディアの発展にもつながっていきます。
1900年代から現代までの記録媒体

1935年、ドイツの電機メーカーAEGによって、テープレコーダーの原型が開発されました。当初は大型のオープンリール型でしたが、やがて小型化が進み、1960年代にはフィリップス社が開発したコンパクトカセットへと発展します。いわゆるカセットテープのことで、同様の技術は他の企業でも開発されていましたが、フィリップス社が製造権を無償で公開し、規格統一を推進したことにより、コンパクトカセットが広く流通することとなりました。この形式は、デジタル記録媒体に移行するまでの数十年間、一般家庭でも広く利用されました。
1950年代に入ると、磁気テープがコンピュータ用の記録媒体としても使用されるようになります。情報の記録はアナログからデジタルへと変化し、それにともないさまざまな新しい記録メディアが登場していきます。
1956年にはIBMが世界初のハードディスクを開発しました。ハードディスクはその後も改良が重ねられ、2020年代に入ってからはSSDへの置き換えも進んでいますが、依然として広く使用されている記録媒体のひとつです。
1970年にはIntelがDRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)を開発し、これがコンピュータの主記憶装置として広く普及しました。この技術は、2020年代現在においても重要な役割を果たしています。
1976年にはアメリカのシュガート・アソシエイツ社がフロッピーディスクを開発します。当時はデータを持ち運ぶ手段として画期的であり、携帯用の記録ディスクとして大きく普及しました。現在はすでに製造が終了していますが、その役割は光学メディアへと引き継がれます。
1982年にはソニーとフィリップスがコンパクトディスク(CD)を開発し、音楽やデータの保存メディアとして広まりました。その後も光ディスク技術は進化を続け、1995年にはDVD、2003年にはブルーレイディスクが登場しています。
▶ 光学メディアの種類と特徴
▶ CD・DVD・Blu-rayの違いと使い分け
1984年には東芝がフラッシュメモリを開発し、1990年代に入ると記録メディアとして普及し始めます。2000年にはUSBメモリが開発され、携帯性に優れた小型メディアとして広く普及しました。現在ではSDカードやSSDなど、同様の技術を応用した多様なメディアが使用されています。
▶ USBメモリの構造とトラブル対策
▶ 最新のフラッシュメモリの種類と選び方
こうして記録媒体の歴史を振り返ると、今や当たり前となったUSBメモリやブルーレイディスクも、登場してからの歴史は意外と浅いことが分かります。1982年に登場したCDはいまだに現役であり、さらに19世紀に発明されたレコードが再び注目を集めるなど、古いメディアの再評価も進んでいます。
記録媒体は、職場や学校、家庭だけでなく、社会のあらゆる場面で必要とされる存在です。今後も技術の進歩により、新たな形式のメディアが登場していくことでしょう。
当社では、新しい記録メディアにも迅速に対応できるよう、日々技術の研究と検証を重ねています。万が一、記録メディアのトラブルやデータの復旧・復元でお困りの際は、お気軽にご相談ください。