ハードディスクドライブ(HDD)のデータ記録技術と大容量化
2023年時点で、市場に出回っている最大のハードディスクドライブ(以下、HDD)は、最大で30テラバイト(TB)の容量に達しています。このような大容量を実現するために、シングル磁気記録(SMR)やエネルギー支援磁気記録(EAMR)などの先進的な記録技術が研究開発されています。これらの技術により、各プラッター上のデータトラックのサイズを小さくし、従来のHDDの形状内でより多くのデータを格納できるようになります。
目次
- 1 ハードデイスクの基本構造
- 2 データ記録技術における2つの方式
- 3 PMR(Perpendicular Magnetic Recording)
- 4 SMR(Shingled Magnetic Recording)
- 5 CMR(PMR)
- 6 CMRとSMRの比較
- 7 CMR(PMR)は日本人が開発者
- 8 ハードディスクの大容量化のための新技術
- 8.1 1. パーペンディキュラー磁気記録(PMR: Perpendicular Magnetic Recording)
- 8.2 2. シングルドーマスメディア
- 8.3 3. シングル磁気記録(SMR: Shingled Magnetic Recording)
- 8.4 4. ヒートアシスト磁気記録(HAMR: Heat-Assisted Magnetic Recording)
- 8.5 5. マイクロウェーブアシスト磁気記録(MAMR: Microwave-Assisted Magnetic Recording)
- 8.6 ヘリウム充填ハードディスク
- 8.7 ヘリウム充填HDDの特徴と利点
- 8.8 使用上の考慮事項
- 9 東芝が30TB超の大容量ニアラインHDDの実証に成功
ハードデイスクの基本構造
ハードデイスクはレコードプレイヤーに例えられることが多いです。レコード盤(ディスク)が当たる円板(ディスク)をプラッタと呼び、読み取りを行う針に相当するのが磁気ヘッドです。レコードプレイヤーとの違いはディスクに磁気ヘッドが接触しないということです。また、レコードプレイヤーはデータの書き込みを行いませんが、ハードディスクはデータの書き込みを行います。
ハードディスクの構造
https://www.datasmart.co.jp/knowledge/harddrive-structure/プラッタについて
ハードディスクドライブ(以下、HDD)の中にはデータを記録、保存するために必要なプラッタが複数入っています。ケース内のごくわずかにある空間で高速回転をする必要があるため、適切な重量・硬度が求められつつも、製造加工がしやすいものにすることで量産が可能となります。
現在ではハードディスクの課題は大容量化ということもあり、剛性が高く、平滑度も高いガラス製のプラッタが使用されるようになってきています。
一般的には、標準的なガラス製品は多くの場合、アルミニウム合金よりも安価であることが多いです。ただし、特定の用途や要求される性能によっては、逆になることもあります。
また、これらの大容量ドライブは、コスト効果的に大量のデータを保存できるため、主に企業やデータセンター向けに提供されています。一般の方のほとんどはクラウドサービスを利用する機会が増えていますが、データの保存はこれらの技術によって実現しているのです。これらのドライブの性能も向上しており、固体ドライブ(SSD)との競争力を維持するためには、この性能の向上が重要です。
データ記録技術における2つの方式
PMR(Perpendicular Magnetic Recording)とSMR(Shingled Magnetic Recording)は、ハードディスクドライブ(HDD)で使用されるデータ記録技術です。これらの技術は、HDDの記録密度を高め、より多くのデータを物理的なサイズを変えずに保存できるように設計されています。
PMR(Perpendicular Magnetic Recording)
PMRは、従来の磁気記録技術である縦磁気記録(LMR: Longitudinal Magnetic Recording)の後継として開発されました。PMRでは、磁気ビットがディスクの表面に垂直(直角)に配置されます。この配置により、ビット間の磁気干渉を減少させ、ディスク面上のビット密度を大幅に向上させることができます。PMR技術の導入により、HDDのストレージ容量は飛躍的に増加しました。
SMR(Shingled Magnetic Recording)
SMRは、さらに記録密度を高めるために開発された技術です。この技術では、磁気トラックを屋根瓦(シングル)のように部分的に重ねて配置します。重ねることで、トラック間の空間を削減し、ディスク上により多くのトラックを配置できるようになります。
しかし、この配置により、データの書き換えが複雑になり、特定の条件下では書き込み速度が低下する可能性があります。SMRドライブは、主にアーカイブやバックアップといった、読み出しが多く書き込みの少ない用途に適しています。
CMR(PMR)
- 垂直記録方式: データビットをディスクの表面に垂直に記録します。これにより、ビット間の磁気干渉を減らし、ディスク面積あたりのデータ密度を高めることができます。
- 高い互換性とパフォーマンス: CMRドライブは、データの書き込みや読み出しにおいて、SMR技術を使用するドライブに比べてパフォーマンスの面で優れています。書き込み速度が安定しており、ランダムアクセスの性能も高いです。
- 一般的な用途に適している: CMRドライブは、日常的なコンピュータ使用から、エンタープライズレベルのデータセンターまで、幅広いアプリケーションに適しています。
CMRとSMRの比較
- 記録密度: SMRはCMRに比べて記録密度が高く、同じ物理サイズのドライブでより多くのデータを保存できます。
- 書き込み速度: CMRドライブは一般に、SMRドライブに比べて書き込み速度が速いです。SMRドライブではデータの書き換えに特別な処理が必要なため、性能が影響を受けることがあります。
- 用途: CMRドライブは、一般的なデータストレージやアプリケーションに適しています。一方、SMRドライブは記録密度が高いため、大容量のデータアーカイブやバックアップに適していますが、頻繁な書き換えが必要な用途には不向きです。
CMRとSMRは、HDDの容量を増やすために重要な技術であり、特定の用途に応じて選択されます。技術の進化により、これらの技術を組み合わせたり、新しい記録技術の開発により、将来的にはさらに高密度で高速なデータストレージソリューションが提供されることが期待されます。
CMR(PMR)は日本人が開発者
PMR(Perpendicular Magnetic Recording、垂直磁気記録)技術は、日本人科学者の飯田弘之(ひろゆき)博士によって大きく発展しました。飯田博士は、この技術の基礎を築き、ハードディスクドライブ(HDD)の記録密度を大幅に向上させるための方法を提案しました。PMR技術は、磁気ビットをディスクの表面に垂直に配置することで、ビット間の磁気干渉を減少させ、ディスク面上のビット密度を高めることができます。
飯田博士の研究とその後の開発は、HDDのストレージ容量の飛躍的な増加に貢献し、データストレージ産業における重要な転換点となりました。その結果、個人用コンピュータやサーバーなど、幅広いアプリケーションで使用されるHDDの容量を大幅に増やすことができるようになりました。
【関連】ハードディスク(HDD)の利用・採用技術ハードディスクの大容量化のための新技術
ハードディスクドライブ(HDD)の大容量化は、データストレージの需要が拡大する中で、技術的な進展が求められています。以下に、HDDの大容量化を実現するための主要な技術を紹介します。
1. パーペンディキュラー磁気記録(PMR: Perpendicular Magnetic Recording)
2005年ごろから広く採用されているPMR技術は、磁性体をプラッターに垂直に配置することにより、データ密度を高める技術です。従来の縦磁気記録(LMR)に比べて、より小さな面積により多くのデータを記録できるため、HDDの容量を大幅に増加させることができます。
2. シングルドーマスメディア
シングルドーマスメディアは、磁性体の粒子をより小さく、かつ均一なサイズで配置する技術です。この技術により、磁気的安定性を保ちつつ、より高い記録密度を達成することが可能になります。
3. シングル磁気記録(SMR: Shingled Magnetic Recording)
SMR技術は、プラッター上のトラックを重ねることで記録密度を向上させる方法です。この技術では、新しいデータの書き込みが隣接トラックに影響を与える可能性があるため、書き込みプロセスが複雑になりますが、容量の増大には効果的です。
4. ヒートアシスト磁気記録(HAMR: Heat-Assisted Magnetic Recording)
ヒートアシスト磁気記録技術は、レーザーを使用して磁性材料を一時的に加熱し、磁気的安定性が高い材料にも精密な記録が可能になるようにするものです。この技術により、さらに高い記録密度を実現することが期待されています。
5. マイクロウェーブアシスト磁気記録(MAMR: Microwave-Assisted Magnetic Recording)
MAMR技術は、マイクロウェーブを利用して磁性体の書き込み能力を向上させるものです。これにより、データをより小さな領域に安定して記録することが可能になり、高密度化が進むことが期待されます。
これらの技術は、それぞれがHDDの記録密度を高め、より大容量のデータストレージを実現するために開発されています。今後も技術の進化が進む中で、さらなる大容量化が期待されています。
ヘリウム充填ハードディスク
ヘリウム充填ハードディスクドライブ(HDD)は、通常の空気の代わりにヘリウムガスを封入したHDDです。ヘリウムは空気よりも密度が低く、その特性を活用して、従来のHDDに比べていくつかの重要な利点があります。
ヘリウム充填HDDの特徴と利点
1. 低い密度
ヘリウムの密度は空気の約1/7です。この低密度により、HDD内部での空気抵抗がなくなり流体抵抗が大幅に減少します。これにより、ドライブ内のプラッタ(データを記録するディスク)がよりスムーズに回転し、振動やノイズが減少します。
2. 熱伝導率の向上
ヘリウムは空気よりも熱伝導率が高いため、内部の熱を効果的に分散させることができます。これにより、ドライブの冷却効率が向上し、熱による劣化や故障リスクが減少します。
3. エネルギー効率の向上
プラッタの回転抵抗が減るため、モーターに必要なエネルギーが減少します。結果として、ヘリウム充填HDDは従来の空気充填HDDに比べてエネルギー効率が良いです。
4. ストレージ密度の増加
ヘリウムの使用により、HDD内部での乱流が減少するため、プラッタをより密接に配置することが可能になります。これにより、同じサイズのドライブ内により多くのプラッタを収容でき、全体のストレージ容量が増加します。プラッタの枚数が6枚だったものを9枚まで増加させることができたのです。
5. 信頼性の向上
ヘリウムは密封されているため、外部のほこりや汚れが内部に入るのを防ぎます。これにより、長期間にわたってドライブの信頼性と耐久性が保たれます。
使用上の考慮事項
ヘリウム充填HDDはその特性上、高密度で大容量のデータストレージが求められるデータセンターやエンタープライズ環境で特に有効です。しかしながら、ヘリウムの封入技術にはコストがかかるため、一般消費者向けの製品ではコストが高くなる可能性があります。また、ヘリウムガスは時間とともに微量ですが漏れることがあり、長期間にわたる完全な密封状態の維持が課題となることがあります。
ヘリウム充填HDDは、高効率かつ大容量のストレージソリューションとしての利点を持ちながら、特定の使用環境とコスト効率のバランスを考慮する必要があります。
東芝が30TB超の大容量ニアラインHDDの実証に成功
ハードディスクドライブ(以下、HDD)のさらなる大容量化を実現する次世代磁気記録技術「熱アシスト磁気記録(以下、HAMR*1)」を用いたHDDと「マイクロ波アシスト磁気記録(以下、MAMR*2)」を用いたHDDにおいて、それぞれ3.5型ニアラインHDDとして、30TB超*3の記憶容量の実証に成功しました。
東芝デバイス&ストレージ 30TB超の大容量ニアラインHDDの実証に成功