SCM(ストレージクラスメモリ)について

パソコンやスマートフォンに搭載されているメモリは「半導体メモリ」と呼ばれるタイプの記憶装置が使用されています。メモリと言われた時に、多くの場合、RAM(ランダムアクセスメモリ/Random Access Memory)を想起なさるかとおもいますが、実はそれ以外にも多様な種類があります。

ストレージクラスメモリ(SCM、Storage Class Memory)は、従来のDRAMとNANDフラッシュメモリの中間に位置する新しいタイプのメモリ技術です。高速なアクセス速度と永続的なデータ保持能力を兼ね備えており、特にデータセンターやエンタープライズ向けのストレージシステムに革新をもたらしています。SCMは、大量のデータを扱うワークロードに対して、従来のストレージ技術よりも優れたパフォーマンスと効率性を提供することを目的としています。

特徴と利点

  1. 高いパフォーマンス:SCMは、DRAMと同様に非常に高速な読み書きが可能です。そのため、メモリとしての役割を果たすと同時に、従来のフラッシュストレージと比べて劇的に高速なデータアクセスを提供します。
  2. 永続性:DRAMとは異なり、電源がオフになってもデータを保持することができるため、NANDフラッシュのような永続的なストレージとしても使用できます。
  3. 低レイテンシ:SCMは従来のNANDフラッシュよりも低いレイテンシを持ち、迅速なデータアクセスを実現します。これにより、リアルタイムのデータ処理や高スループットが求められるアプリケーションに適しています。
  4. 大容量化の可能性:SCMはDRAMよりもコストが低いため、大容量のメモリを提供することが可能です。これにより、データセンターやクラウドサービスでのスケールアップが容易になります。

主な技術

SCMを実現する技術としては、以下のようなものがあります。

  • 3D XPoint:インテルとマイクロンが共同開発した技術で、非常に低レイテンシと高耐久性を誇ります。インテルのOptaneメモリに使われており、高速なキャッシュメモリや大容量ストレージとして活用されています。
  • MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory):磁気の特性を利用したメモリ技術で、データを高速にアクセスでき、消失せずに保持できるため、SCMの用途に適しています。
  • ReRAM(Resistive Random Access Memory):抵抗変化型メモリとして、データの保存や消去が非常に迅速に行える技術です。

用途

SCMは、次のような用途で注目されています。

  • キャッシュメモリ:非常に高速なデータアクセスが求められるため、ストレージシステムにおけるキャッシュメモリとして使用され、データベースやAI、機械学習などのアプリケーションでのパフォーマンス向上に寄与します。
  • 大規模データ処理:ビッグデータやデータウェアハウスにおいて、SCMは大量のデータを迅速に処理するための基盤となり、処理の効率化が図られます。
  • ハイブリッドストレージ:SCMは、既存のDRAMやフラッシュメモリと組み合わせて、ハイブリッドストレージアーキテクチャの一部として利用され、ストレージ階層の最適化を実現します。

ストレージクラスメモリは、データ保持性能と高い処理速度を同時に提供する革新的な技術であり、これからも幅広い用途で活躍が期待されています。

Intelは、ストレージクラスメモリ(SCM)の発展において重要な役割を果たしており、その代表的な貢献は「Intel Optane」シリーズです。この製品シリーズは、IntelとMicronが共同開発した3D XPoint技術をベースにしており、高速なデータアクセスと永続的なデータ保存能力を兼ね備えています。

Intel Optaneの特徴

Intel Optaneは、従来のDRAMやNANDフラッシュメモリの限界を超える性能を提供するSCM製品として開発されました。Optaneの製品ラインアップには、次のような特徴があります。

  • 低レイテンシ:3D XPoint技術によって非常に低いレイテンシでデータを読み書きでき、特にデータセンターやエンタープライズ環境でのリアルタイムデータ処理に適しています。
  • 高耐久性:従来のNANDフラッシュメモリよりも耐久性が高く、頻繁な書き込み操作に対しても優れた性能を発揮します。これにより、長期間にわたって安定したパフォーマンスを維持します。
  • 大容量:Optaneは、DRAMと比較してコストパフォーマンスが高く、より大容量のメモリとして導入が可能です。これにより、メモリ集約型アプリケーションのスケーラビリティが向上します。

主な製品シリーズ

  1. Intel Optane Memory:このシリーズは、PC向けに開発され、特にストレージの高速化を目的としています。主にSSDのキャッシュとして使用され、HDDやSATA SSDに比べて大幅なパフォーマンス向上が期待できます。個人向けや企業のデスクトップPCに導入され、システム全体のレスポンスを高速化します。
  2. Intel Optane SSD:エンタープライズ向けのSSDとして設計されたこのシリーズは、低レイテンシかつ高スループットな性能を提供し、データベースや仮想化システムなど、データ集約型のワークロードに適しています。サーバーやデータセンターのストレージ階層において、Optane SSDは従来のNANDフラッシュSSDと組み合わせて使用され、性能向上に寄与しています。
  3. Intel Optane Persistent Memory(PMem):Persistent Memoryは、メモリとストレージの中間に位置する製品であり、従来のDRAMと並べて使用されます。PMemは、データの永続性を持ちながらDRAMに匹敵するパフォーマンスを提供するため、大規模データベースやAIワークロードで非常に効果的です。システムがシャットダウンしてもデータを保持するため、再起動後も即座にデータにアクセスできるという利点があります。

●インテル® Optane™ メモリー H10 & ソリッドステート・ストレージ

インテル® Optane™ メモリー H10 & ソリッドステート・ストレージは、Optaneメモリ技術とNANDフラッシュメモリを1つのデバイスに統合した革新的なストレージソリューションです。この製品にはいくつかの特筆すべき点があり、特に性能と効率性に注目が集まっています。

  1. OptaneメモリとQLC NANDフラッシュの統合: インテル® Optane™ メモリー H10は、2つの異なるストレージ技術(OptaneメモリとQLC NANDフラッシュ)を一体化した製品です。Optaneメモリは低レイテンシでデータへの迅速なアクセスを提供し、QLC NANDフラッシュは大容量のデータ保存が可能です。この組み合わせにより、頻繁に使用されるデータに対しては高速アクセスを提供し、同時に大容量ストレージとしての役割も果たします。
  2. 高速な起動とアプリケーションの応答性: Optaneメモリのキャッシュ機能を活用することで、システムの起動時間やアプリケーションの応答性が大幅に向上します。これにより、従来のSSDやHDDに比べて日常的な作業がスムーズに行えるため、ユーザーはパフォーマンス向上を実感できます。
  3. 効率的なデータ管理: インテルのソフトウェア技術により、OptaneメモリとNANDフラッシュのデータ管理が最適化されています。頻繁にアクセスされるデータはOptaneメモリに優先して格納され、その他のデータはNANDフラッシュに保存されるため、全体的なシステムパフォーマンスが向上します。この「階層型」ストレージ管理は、デスクトップやノートパソコンの性能向上に特に効果的です。
  4. コンパクトな設計: インテル® Optane™ メモリー H10は、M.2スロットに対応するコンパクトなフォームファクターで提供されています。これにより、従来のSSDと同様にノートパソコンや超薄型PCなどにも簡単に搭載することができ、スペースの限られたデバイスでも高いパフォーマンスを実現します。
  5. QLC NANDによる大容量ストレージ: QLC(Quad-Level Cell)NANDフラッシュメモリは、1セルあたり4ビットのデータを保存できるため、より高密度で大容量のストレージが実現されます。この技術により、インテル® Optane™ メモリー H10は大容量データ保存を低コストで提供します。

Intel以外のメーカーも、ストレージクラスメモリ(SCM)の開発に積極的に取り組んでいます。各社は独自の技術やアプローチを活用し、データセンター、エンタープライズ市場、そして特定のワークロード向けにSCMを提供しています。以下、Intel以外の主要なメーカーと彼らのSCMに対する取り組みについて説明します。

1. Micron Technology

Micronは、Intelと共同で「3D XPoint」技術を開発したメーカーの一つであり、現在は独自にこの技術を展開しています。IntelとMicronの提携が終了した後、Micronは自社ブランドでの3D XPointベースの製品を市場に投入しました。

  • Micron X100 SSD:MicronのX100は、3D XPoint技術に基づくSSDで、従来のNANDベースのSSDよりもはるかに低いレイテンシと高速なスループットを実現します。これにより、データセンターやビッグデータ処理、AIワークロードにおいて、データの迅速なアクセスを提供します。

Micronは、ストレージクラスメモリ技術を使用して、エンタープライズやクラウドサービス向けに高性能なストレージソリューションを提供しており、これらの分野でのリーダーとしての地位を確立しています。

2. Western Digital

Western Digitalも、SCMの開発において独自のアプローチを取り、次世代のストレージ技術を模索しています。

  • ReRAM(Resistive RAM):Western Digitalは、リーダブル抵抗性メモリ技術(ReRAM)を研究開発しており、これを次世代のストレージ技術として位置づけています。ReRAMは、電圧によって抵抗値を変化させることでデータを保存するため、従来のNANDフラッシュに比べて非常に高速なデータの読み書きが可能です。ReRAMはSCMの一部として、特に高スループットを必要とするアプリケーションで使用されることが期待されています。
  • Ultrastar DC ME200:Western DigitalのUltrastar DC ME200は、メモリ拡張カードとして提供され、データセンターやクラウド環境で使用されています。これにより、ストレージクラスメモリの性能を活用して、大規模なデータワークロードに対応しています。

3. SK Hynix

SK Hynixは、半導体メモリの分野で強力な存在感を持ち、SCMの開発においても注目されています。

  • PRAM(Phase-Change RAM):SK Hynixは、PRAM(相変化メモリ)技術の開発を進めています。PRAMは、素材が異なる相を取ることによってデータを記録し、NANDフラッシュよりも高速かつ高耐久なメモリ技術とされています。PRAMは、ストレージクラスメモリとして、データセンターや高性能コンピューティングの分野で応用が期待されています。

4. Toshiba/Kioxia

Toshiba(現在のKioxia)も、ストレージクラスメモリ技術に取り組んでおり、特に次世代のメモリ技術に注力しています。

  • XL-FLASH:KioxiaのXL-FLASHは、低レイテンシと高性能を実現する次世代のNANDフラッシュメモリです。これは、NANDフラッシュをベースにしながらも、よりDRAMに近い性能を目指しており、エンタープライズ向けのストレージソリューションとして提供されています。XL-FLASHは、ストレージクラスメモリの役割を果たし、従来のストレージソリューションよりも高速で低遅延なアクセスを可能にします。

Hewlett Packard Enterprise(HPE)は、ストレージクラスメモリ(SCM)を組み込んだストレージソリューションを提供しています。これらの製品は、特にデータセンターやエンタープライズ向けに設計されており、高性能なデータ処理や低レイテンシを求める企業向けに最適化されています。そのため、一般的なユーザーにはあまり馴染みがないかもしれませんが、企業のITインフラを強化するための重要な技術として広く活用されています。

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