テープメディアの歴史

19世紀末~1940年代
テープメディアの原型は19世紀末に誕生したとされていますが、実用化が進んだのは第二次世界大戦中のドイツでした。当時、連合国はドイツのラジオ放送の音質の良さに注目していましたが、その技術の全貌を把握したのは戦後のことでした。この技術はアメリカに引き継がれ、その後のテープメディアの発展に大きく寄与しました。

1950年代~1970年代
コンピュータ用テープストレージの登場は1951年、Remington Rand(現在のUnisys)製のUNIVACⅠに搭載されたのが最初です。これは、世界初のビジネス向け汎用コンピュータであり、アメリカの国勢調査や軍隊、原子力委員会などで使用されました。当時のコンピュータはパンチカードを使用した入出力が主流でしたが、テープを利用することでデータ処理が劇的に高速化されました。その後、テープメディアは小型化とカセット化が進み、音楽用途を含む一般家庭にも広く普及していきました。

1980年代
この時代、テープはデータストレージの主要な手段でしたが、テープをドライブにセットする作業は手動で行われていました。そこで、ロボットを利用してテープを自動でセットする技術が実用化され、ジュークボックスのようなシステムが大型サーバーに導入されました。しかし、個人向けのパーソナルコンピュータが普及し、そのストレージとしてHDDが採用されると、HDDの容量、速度、コスト面での優位性が明らかになり、テープストレージ市場は急速に縮小していきました。

1990年代
コンピュータでのデータ管理が一般的になるにつれて、参照頻度は低いが一定期間保存が必要なデータ、たとえば法令遵守のための経理データや実験データなどが増加しました。テープは「利便性は劣るが、大容量データを低コストで保存できる」という特性から再び注目されるようになり、大容量化が進むにつれて他のメディアを上回る保存容量を持つようになりました。

2000年代~2010年代
これまでDLTやAITが業界標準とされていましたが、一社独占の弊害が指摘され、よりオープンな規格が求められるようになりました。その結果、HP、IBM、Seagateの3社が共同で策定したLTO(リニア・テープ・オープン)規格が登場し、テープストレージの新しいスタンダードとなりました。現在でもGoogleやAmazonなどの大規模データセンターではバックアップにテープが利用されており、データ用テープの生産量も徐々に増加しています。

2010年代以降
2010年以降、デジタル化が進む中でクラウドストレージやHDDが主流になり、テープメディアは一部のニッチな市場に限定されるようになりました。しかし、テープメディアは大容量データの長期保存において依然として重要な役割を果たしています。特に、ビッグデータの保存やアーカイブ用途において、コスト効率が高く、エネルギー消費が低いことから、企業やデータセンターでの利用が続いています。

LTO規格の進化
LTO(Linear Tape-Open)規格は、この時期にも進化を続けています。2017年にはLTO-8がリリースされ、未圧縮で12TB、圧縮で最大30TBのデータを保存できるようになりました。LTO-8以降も規格の進化が続き、さらに大容量かつ高性能なテープメディアが開発されています。これにより、テープはクラウドストレージとの併用が進み、大規模なデータセンターや企業でのバックアップおよびアーカイブ用途において、再評価されています。

テープメディアの復権
2010年代後半から、ランサムウェア攻撃の増加や法的なデータ保存義務の強化などにより、テープメディアが再び注目を集めています。特に、データの改ざん防止や長期保存において、テープの信頼性が評価されています。さらに、クラウドストレージと異なり、テープメディアはオフラインで保管できるため、セキュリティリスクの低減にも寄与します。

Gmailのユーザーデータの保管に活用

2011年2月、Googleの主要サービスの一つであるGmailにおいて、数万件以上のアカウントに関連するメールデータが消失するという重大な障害が発生しました。公式発表によれば、障害の原因はストレージソフトウェアの更新に含まれていたバグであり、これによりデータが失われる事態となりました。問題が発覚した後、Googleは直ちにストレージソフトウェアを旧バージョンに戻し、消失したデータについてはバックアップしていたテープから復元を行いました。これにより、データの完全な復旧が達成されました。

Official Gmail Blog: Gmail back soon for everyone

近年では一般的に目にする機会が少なくなったテープストレージですが、特定の用途において進化を続けることで、その存在意義を維持しています。大容量データを低コストで保存できること、またオフラインでデータ保存が可能であるためサイバー攻撃のリスクが低いことなどから、急増するデータの保存先として、今後もテープストレージが活用され続けると予想されます。

持続可能性と環境への配慮
近年、テープメディアはエネルギー効率が高いことから、環境への配慮が求められる現代において持続可能なストレージソリューションとしても評価されています。長期間にわたって安定してデータを保存できるだけでなく、電力消費が低いため、企業が環境負荷を抑えるための手段としても導入が進んでいます。

日本企業による世界初の磁性体の開発について

磁気テープの保存容量は、テープに使用される磁性体の面記録密度に大きく依存しています。現在のテープ世代では、磁性体としてバリウムフェライト(BaFe)が使用されており、これは2011年に富士フイルムが世界で初めて実用化したものです。

さらに、最新技術として、2020年に富士フイルムとIBMが共同開発したストロンチウムフェライト(SrFe)磁性体を使用した実走行試験が成功を収めています。この技術では、面記録密度が317Gbpsi(ギガビット毎平方インチ)に達し、1本のテープメディアで580TBという驚異的な記録容量を実現できるとされています。これは従来のLTO-8規格と比較して約50倍の容量に相当します。

Barium Ferrite (BaFe:バリウム・フェライト)技術 | 富士フイルム [日本]

2020年以降のテープメディアの展開

パンデミックによる影響
2020年以降、新型コロナウイルスのパンデミックがデータ管理の在り方に大きな影響を与えました。リモートワークの普及やデジタル化の加速により、データの生成量が急増し、それに伴って大規模なデータ保存の需要も増加しました。これにより、テープメディアは再び注目を集め、大容量データの長期保存やバックアップとしての利用が拡大しました。

LTO-9のリリース
2021年には、LTO(Linear Tape-Open)の第9世代であるLTO-9がリリースされました。LTO-9は、未圧縮で18TB、圧縮で最大45TBのデータを保存できる能力を持ち、前世代と比べてさらに大容量化が進んでいます。LTO-9は、データセンターや大規模なデータアーカイブにおいて、引き続き主要なストレージメディアとしての地位を確立しています。

サイバーセキュリティ対策としてのテープ
ランサムウェア攻撃の脅威が増大する中で、テープメディアはオフラインで保管できるという特性から、データのバックアップとセキュリティ対策の両面で重要性が増しています。企業や政府機関は、テープを利用することで、データをランサムウェアなどのサイバー攻撃から保護することができるため、再びテープが見直される動きが強まっています。

持続可能なデータ保存
2020年代に入り、環境への配慮が企業の重要な課題となっています。テープメディアは、電力消費が低く、長期間にわたる安定したデータ保存が可能であるため、持続可能なデータ保存手段として注目されています。テープはHDDやSSDと比べて冷却が不要であり、エネルギーコストの低減に寄与するため、環境負荷を抑えるストレージソリューションとしての需要が高まっています。

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