最新のフラッシュメモリについて

NANDフラッシュメモリは、デジタルデータの保存に用いられる不揮発性の記憶装置の一種です。これは、データを電気的に消去および書き込みできるフラッシュメモリの一形式であり、揮発性のRAMとは異なり、電源が切れてもデータが保持されます。NANDフラッシュメモリは、その構造と動作原理から、特定の利点と用途を持っています。

構造と動作原理

NANDフラッシュメモリは、多数のトランジスタを縦横に配列したセルアレイで構成されています。このアレイの各セルは、電子の存在によってデータを表現します。電子が存在すると「0」、存在しないと「1」として読み取られます。NANDフラッシュメモリの名前は、基本的な論理ゲートのNAND(Not AND)から来ています。この構造により、データの読み書きが高速かつ効率的に行われます。

利点

  1. 高密度: NANDフラッシュメモリは、高いデータ密度を実現できるため、ストレージデバイスの容量を増やすことが可能です。
  2. 低コスト: DRAMやSRAMと比べて製造コストが低いため、コストパフォーマンスに優れています。
  3. 耐久性: 書き込み回数には限度がありますが、読み出しには制限がないため、読み取り頻度の高いアプリケーションに適しています。

欠点

  1. 書き込み制限: NANDフラッシュメモリは、書き込み回数に限界があります。これを超えるとセルが劣化し、データ保持能力が低下します。
  2. アクセス速度: 読み出し速度は速いですが、書き込み速度は他のメモリと比べて遅いことがあります。
  3. エラー率: 特に大容量になるほど、ビットエラーが発生しやすくなります。これに対処するため、エラー訂正コード(ECC)が必要です。

主な用途

NANDフラッシュメモリは、さまざまなデバイスで広く使用されています。代表的な用途には以下のようなものがあります。

  • スマートフォンやタブレット: スマートフォンとタブレットは、モバイルコンピューティングデバイスとして広く普及しています。スマートフォンは、音声通話機能を備えた携帯電話に、インターネット接続やアプリケーション利用機能を追加したもので、ポケットサイズの高機能デバイスです。一方、タブレットは、より大きな画面を持ち、主にタッチ操作で操作するコンピュータです。これにより、動画視聴や電子書籍の閲覧が快適に行えます。どちらのデバイスも、iOSやAndroidといったモバイルオペレーティングシステムを搭載し、アプリケーションストアから多様なアプリをダウンロード可能です。これにより、メール、SNS、ゲーム、ビジネスツールなど、さまざまな用途に対応できます。スマートフォンは持ち運びやすさが魅力で、常に携帯することが一般的です。タブレットは大画面による視認性の良さと、長時間の使用に適しているため、教育やビジネス、エンターテインメントに広く利用されています。大容量データの保存に適しており、アプリやデータのストレージとして利用されています。
スマートフォン・タブレットについて
  • SSD(Solid State Drive): 高速なデータアクセスが要求されるコンピュータとOSの間で行われる補助記憶装置で、半導体チップに情報が保存されます。SSD(ソリッドステートドライブ)はエスエスディーと呼ばれることが多いです。NANDフラッシュメモリを基盤とした高速ストレージデバイスです。従来のHDD(ハードディスクドライブ)とは異なり、構成モジュールも少なく、可動箇所がなく、データの読み書きを電気的に行います。NANDフラッシュメモリの利点である高密度と低コストにより、SSDは高速で信頼性の高いデータ保存を提供します。SSDの主な特徴は、高速なデータ読み書き速度と低消費電力です。NANDフラッシュメモリは、データをトランジスタのセルに保存し、これによりアクセス速度が向上します。また、可動部品がないため、振動や衝撃に強く、耐久性も高いです。これにより、パソコンやサーバー、ゲームコンソールなど、さまざまなデバイスで広く使用されています。さらに、3D NAND技術の進化により、セルを垂直に積み重ねることで、容量が増加し、コストパフォーマンスも向上しています。これにより、SSDはますます普及し、多くのデバイスでHDDに代わる標準的なストレージとなっています。
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  • USBメモリとSDカードは、NANDフラッシュメモリを基盤とするポータブルストレージデバイスです。どちらもデータの保存、転送、およびバックアップに広く使用されています。NANDフラッシュメモリの利点である高密度、低コスト、および不揮発性により、これらのデバイスは高性能かつ信頼性の高いデータ保存を提供します。
  • USBメモリ:USBメモリは、USBインターフェースを介してコンピュータやその他のデバイスに接続される小型のフラッシュドライブです。NANDフラッシュメモリを使用することで、データの高速読み書きが可能となり、持ち運びやすく便利なストレージソリューションとなっています。また、耐久性に優れ、繰り返し使用してもデータの信頼性が維持されます。
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  • SDカード:SDカードは、スマートフォン、デジタルカメラ、タブレットなどのデバイスに使用される小型のメモリカードです。NANDフラッシュメモリを基盤とすることで、高容量かつ高速なデータ保存が可能となります。これにより、写真や動画の保存、アプリケーションデータの拡張が容易に行えます。また、3D NAND技術の進化により、SDカードの容量はさらに増加し、コストパフォーマンスも向上しています。
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  • デジタルカメラ: デジタルカメラは、写真や動画をデジタル形式で記録するデバイスであり、NANDフラッシュメモリがその主要なストレージ技術として利用されています。NANDフラッシュメモリは高密度であり、大容量のデータをコンパクトな形式で保存することが可能です。これにより、デジタルカメラは大量の高解像度写真や長時間のビデオを保存できます。NANDフラッシュメモリの高速なデータ書き込み能力は、シャッターを切るたびに即座に画像データを保存するために不可欠です。これにより、連続撮影モードでもスムーズな動作が可能です。また、不揮発性の特性により、電源が切れてもデータが保持されるため、撮影データの安全性が確保されます。
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耐久性と速度低下

SSDの書き込み耐性を示す指標として「TBW(Terabytes Written)」があります。これは、オフィスや家庭用PCで使用するSSDに対して、繰り返し書き込みを行った際に許容される最大の書き込みデータ量を表しています。一般的に、TLC(トリプルレベルセル)では400~600TBW、QLC(クアッドレベルセル)では200TBW程度が平均的な数値とされています。

QLCの寿命はTLCの半分以下であるため、QLCがすぐに壊れると懸念する人もいるかもしれません。しかし、一般的なパソコン利用において、毎日数GB程度のデータを書き込むと仮定すると、200TBの書き込みに到達するまでに数十年かかると推測されます。このため、セルの劣化によるSSDの寿命よりも、SSD本体やパソコン自体の寿命が先に訪れるケースがほとんどです。

速度に関しても、TLCとQLCを比較すると、読み書きのパフォーマンスに約60~80%の差があります。ただし、この程度の差では、通常の使用では体感できないことも多いです。しかし、大きな違いが現れるのはキャッシュが切れた場合です。QLCではキャッシュ切れが発生すると、性能が著しく低下することがあり、大容量データの連続した転送作業などでは、結果として転送速度に大きな差が生じます。

そのため、大容量のデータを頻繁に書き込んだり転送するような作業が多い場合、QLCは避けた方がよいでしょう。一方で、そのような作業が少なく、スペックよりもコストを重視する場合には、QLCは十分におすすめできる選択肢です。

現在では、QLCを採用した製品が一般市場に出回っていますが、2020~2021年の時点ではTLCとの価格差が大きくなく、依然としてTLCが主流でした。しかし、今後QLCの量産が進むにつれて、容量あたりのコスト差が広がり、QLCが主流となっていくと予想されています。また、最新のQLC製品では、技術の進化により耐久性や性能の向上が見られる可能性があるため、今後の動向に注目が必要です。

擬似的なシングルレベルセルについて

現在、一般市場で販売されている多くのメモリ製品にはTLC(トリプルレベルセル)フラッシュメモリが採用されています。しかし、より高い信頼性が求められる産業用製品では、依然としてSLC(シングルレベルセル)フラッシュメモリが使用されています。しかし、大容量化や価格競争の影響で、SLCの需要は一般市場では減少しており、現在では限られた製造ラインでのみ生産されています。その結果、SLCの価格は非常に高騰しており、一般的なTLCタイプのSSDと比較すると市場価格で10倍以上の差がある場合もあります。

その代替として、TLCフラッシュメモリを疑似的にSLCのように動作させる「SLCモード」という技術が導入されています。この仕組みは、通常は1セルに3ビットの情報を格納するTLCのメモリセルに対して、あえて1ビットの情報だけを記録するというものです。これにより、本来のメモリ容量の4分の1しか使用できなくなります。例えば、容量が8GBのUSBメモリであれば、実質的に使用できる容量は2GBに制限されます。しかし、TLCフラッシュメモリは生産量が多く、コストが安いため、同容量のSLCメモリを使用した場合に比べてコストは大幅に抑えられます。さらに、信頼性においてもSLCとほぼ同等のパフォーマンスを発揮することが、この技術の大きな特長です。

例えば、トランセンドがリリースした産業用microSDカード「USD230I」では、このSLCモードが採用されています。

SLCモードを採用した産業用microSDカード「USD230I」をリリースします/トランセンド

この製品は、ドライブレコーダーや防犯カメラなどの業務用製品向けに設計されており、一般市場では入手が難しい状況ですが、今後の需要次第では流通が拡大する可能性もあります。特に、ドライブレコーダーや防犯カメラのように、頻繁にデータの上書きを行う過酷な環境では、このSLCモードが非常に効果的に働くと考えられます。

このように、信頼性とコストのバランスを取るための新たな技術としてSLCモードは今後も注目されていくでしょう。最新の技術動向を注視することで、一般市場においてもさらに選択肢が広がる可能性があります。

技術の進化

近年では、3D NAND技術が開発され、セルを垂直に積み重ねることで、さらなる高密度化とコスト削減が実現されています。この技術により、より大容量で低コストのフラッシュメモリが提供可能となり、さまざまなデバイスに組み込まれています。

NANDフラッシュメモリは、その高密度と低コストの特性から、現代のデジタル機器に不可欠な要素となっています。技術の進化とともに、その用途と性能は今後もさらに拡大していくでしょう。

平面から立体へ:3D NANDの進化

容量増加のための技術として、微細化技術以外のアプローチも注目されています。NANDフラッシュメモリの記憶容量は、1つのチップ(ダイ)あたりの容量によって決まります。ダイとは、半導体製造工程でシリコンの円盤に素子や配線を焼き付け、それを切り出して得られるチップのことです。このダイにどれだけ効率的にメモリセルを配置して記憶容量を増やすかに関して、メーカーは長年研究開発を競ってきました。

しかし、2011年頃からはさらなる大容量化が困難になってきました。大量のセルを平面上に並べて動作させる場合、セル間の電気的干渉が増加し、読み書きの信頼性が低下しやすくなる問題が浮上しました。また、回路を焼き付けるリソグラフィ技術も微細化が限界に近づき、2015年頃には微細化技術の進展は頭打ちになったとされています。

この課題を解決するために登場したのが「3D NANDフラッシュ」と呼ばれる技術です。それまで平面上に配置していたメモリセルを立体的に積み重ねることで、記憶容量を大幅に増やすことができるようになりました。平面的に家を一つずつ増やしていた住宅街を、突然高層ビル群に変えるような革新と例えられるアイデアです。

2007年に東芝(現KIOXIA)が積層技術を発表して以降、各メーカーが3D構造の研究に注力しました。製品化までには時間がかかりましたが、2015年頃から3D NANDフラッシュメモリが一般市場に登場し始めました。

技術の進化は続いており、初期の3D NANDでは32層の積層が主流でしたが、2018年頃には96層にまで達した製品が市場に出現しました。さらに、2020年にはMicron Technologyが176層の超高層化技術を発表し、注目を集めました。現在では64層や96層の製品が一般的ですが、今後もさらなる高層化が進むことが予想され、より高密度な製品が市場に登場してくるでしょう。

フラッシュメモリ技術が進化する一方で、メモリが消耗品であることには変わりありません。どれだけ技術が進歩しても、データ喪失のリスクをゼロにはできません。そのため、大切なデータを守るためには、定期的なバックアップを欠かさないことが最も重要です。

技術革新の中で、3D NANDはより多層化が進み、今後もさらなる容量増加が期待されます。

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