ハードディスク(HDD)の構造|データ復旧

ハードディスクの構造と仕組み

パソコン、デジタルカメラなどデジタル機器を通じて作成したデータは安価で大容量なハードディスク(HDD)に保存されていることが多いです。バックアップを目的としてハードディスクに保存なさる方もいらっしゃるかと思いますが、その内部の構造や仕組みはほとんどの方が知らないと思います。

専門業者としてハードディスクの構造を解説させていただきます。

ハードディスク(HDD)とは

ハードディスクの正式名称はHard Disk Drive(ハード・ディスク・ドライブ)です。書類データ、写真や動画、デザインデータなどさまざまなデータ形式に対応し、大量に保存することが可能です。サイズも名様々で1.8インチでiPodやビデオカメラで使われているものや2.5インチサイズのノートパソコン用、レコーダー、サーバーなどでも利用される3.5インチのものがあります。

ハードディスクはデジタル化された社会において、使用される大切な「データの保存場所」であり、私たちが日々使う多くの情報を安全に保管しておくために非常に重要な役割を果たしています。

ハードディスクの構造

HDD

ハードディスクは大きく分けると以下の部品から構成されています。特に重要度が高いものから順にご紹介いたします。

  • プラッタ(磁気ディスク)
    磁性体を塗布または蒸着した金属のディスクで、データを記録保持します。
    複数の磁気ディスクを同軸に配置し、ディスク枚数は 2枚から10枚程度です。
  • スピンドルモーター
    プラッタを回転させる動力です。
    回転速度は、毎分7,200回転、毎分10,000回転、毎分15,000回転などあります。
  • 磁気ヘッド
    スイングアームの先端に取り付けられており、プラッタ表面の磁気記録層に対して磁気データを読み書きします。
  • アクチュエータ(位置決め装置)
    磁気ヘッドを任意のトラック上で、半径方向に移動するための動力です。
    素早く精密な動きを実現します。

プラッタ(ディスク)

HDDの中心的な要素であるプラッタは、データを記録する円盤部分のことを指します。このプラッタは、アルミニウム、ガラス、またはセラミックといった非磁性の材質で作られ、その表面に記録用の磁性体が塗布されています。プラッタの素材自体は非磁性ですが、磁性材料がコーティングされることでデータを記録できるようになっており、これらの硬度の高い(ハード)素材で作られていることから「ハードディスク」と呼ばれています。また、HDDのプラッタは同心円状にデータが記録され、レコード盤のような螺旋状ではありません。

一般的に、HDDは複数のプラッタを搭載しており、それぞれのプラッタの両面または片面にデータが記録されます。プラッタの枚数が増えることでデータの保存容量が増加しますが、回転するプラッタ同士が接近しすぎると空気抵抗が無視できないレベルになってしまいます。この問題を解消するため、一部のHDDではヘリウムを封入する技術が使用されています。ヘリウムは空気に比べて抵抗が小さいため、プラッタの枚数を増やしつつも高速回転を可能にしています。

プラッタの回転には、回転軸受けが用いられており、そのスムーズな動作を支えています。しかし、環境温度の変化や長期間の使用によって、流体軸受のオイルが劣化したり、玉軸受のボールが摩耗することがあります。軸受が劣化すると、プラッタの回転が不安定になり、最終的にはHDDの故障につながる可能性があります。

また、プラッタの表面には高い精度の平滑性が求められ、わずかな凹凸でも故障の原因となります。そのため、剛性や耐衝撃性が重要であり、特に高速回転時の振動を抑えるためにこれらの特性が必要です。加えて、プラッタのアラインメントがずれるとデータの読み出しができなくなり、HDDの分解処置においてもプラッタの取り外しを極力避けることが推奨されています。

磁気ヘッド(ヘッドアセンブリ)

ヘッドはプラッタ(ディスク)上に保持された磁気情報を読み出すためのアームのような部品です。ヘッドには通常、GMR(巨大磁気抵抗)やTMR(トンネル磁気抵抗)などの技術が使用されています。レコードで言う針の部分にあたるものですが、直接針と円盤が触れているレコードとは異なり、HDDではプラッタとヘッドはわずか数nmという極小の隙間を保ったまま浮遊しています。

注意点

磁性体が剥離すると、磁気情報そのものが喪失してしまうこともあります。また、磁性体が削られたとまでいかなくとも磁性体自体の経年劣化などにより磁気情報の読み出しが困難になることがあり、これを「不良セクタが発生した」と言います。また、重大なヘッド損傷の原因となることも懸念されます。

memo

磁気抵抗効果は磁気ヘッドがデータを読み取る際に使用される物理現象のことです。

2007年のTMR素子の実用化によってデータの保存容量は急増しています。

これは髪の毛1本よりもさらに小さな隙間でHDDが超精密機器と呼ばれる所以でもあります。様々な要因でヘッド部分が正常に機能していない状態をヘッドクラッシュと呼ぶことがあります。このような場合、ヘッドがプラッタを傷つけていることも多く磁性体剥離を引き起こしてしまっている恐れがあります。

ヘッドの先端は非常に小さい電磁石から成り、プラッタ表面の磁性材料を磁化することでデータを書き込み、またその磁化状態を読み取ることでデータを読み出します。

モーター(スピンドルモーター、ボイスコイルモーター)

プラッタを回転させるためのスピンドルモーターとヘッドアセンブリをシークさせるためのボイスコイルモーターがあります。HDDの仕様に5,400rpmや7,200rpmと書いてあることがありますが、これはスピンドルモーターの回転数のことです。例えば5,400rpmの場合、1分間に5400回転することを意味します。

軸受

プラッタの回転を制御するスピンドルモーターの回転軸には、玉軸受(ボールベアリング)、流体動圧軸受(Fluid Dynamic Bearing; FDB)、および流体軸受が使用されます。ハードディスクでの軸受の主な役割は以下の通りです。

  • 回転の安定性の確保:軸受はスピンドル軸を非接触状態で正確に位置決めし、安定した回転を保証します。これにより、読み取り/書き込みヘッドが正確にデータを読み書きするための環境を提供します。オイルシールの使用により、軸受の摩耗を防ぎ、起動トルクを低減します。
  • 振動の抑制:軸受はモーターの振動や外部からの衝撃がプラッターに影響するのを最小限に抑えます。これにより、データの読み書きエラーのリスクを低減し、環境温度の変化にも対応します。
  • 耐久性の向上:耐久性の高い軸受は、長期にわたる使用に耐えることができ、ハードディスクの寿命を延ばす効果があります。非接触状態での運転により、摩耗を減少させます。

種類

ハードディスクには主に以下の二つのタイプの軸受が使用されています。

  1. ボールベアリング
    • 小さな鋼球が二つのリング間で回転する構造を持っています。
    • 伝統的に多くのハードディスクで使用されてきましたが、騒音や摩耗の問題があります。

ボールベアリングは、回転軸と外輪の間にボールを挟み込み、転がりによって摩擦を低減する軸受方式です。主に鋼製のボールが使われ、高い耐久性と強度が特徴です。ボールベアリングの利点には、構造がシンプルで製造コストが低いこと、比較的高負荷に耐えられることがあります。しかし、摩擦や振動、ノイズがFDBに比べて大きく、特に高速回転時には性能が劣ることがあります。

  1. 流体動圧軸受(フルードダイナミックベアリング:FDB)
    • オイルやその他の液体を潤滑油として使用して、軸とベアリング表面間の滑らかで静かな回転を実現します。
    • 摩擦が少なく、騒音も低減されるため、現代のハードディスクではこのタイプが主流になっています。

流体動圧軸受(FDB)は、回転軸とベアリングの間に流体(通常は油)が入り込み、回転によって生じる流体の動圧によって支持される軸受方式です。これにより、金属同士の直接接触がなくなり、摩擦が大幅に減少します。FDBの利点には、低振動・低ノイズ、長寿命、高回転速度の安定性が挙げられます。また、熱の発生が少なく、エネルギー効率も高いです。

軸受の重要性

ハードディスクの軸受は、ドライブの性能と信頼性に直接影響します。軸受が正しく機能しない場合、プラッターの回転速度の安定性が損なわれ、データの読み書きエラーや最悪の場合はデータ損失を引き起こす可能性があります。そのため、軸受の選択とメンテナンスはHDDの設計と保守において非常に重要です。

軸受の技術の進化は、ハードディスクドライブの性能向上と静粛性の向上に寄与しており、より高速で信頼性の高いストレージデバイスの開発を可能にしています。

回路基板

ハードディスクの底部には回路基板があり、複数のLSIチップとアナログ回路で構成されています。

データ処理用のチップや電源管理、インターフェースのコントローラー(例えばSATAやUSB)、モーターの動作用のプログラムやファームウェアなど各種構成部品の集合体をHDDとしてコンピュータ制御するための各種電子部品(EEPROMやキャッシュメモリーなど)が実装されています。

データの読み書きに関わる制御や、ディスク内外のデータ転送を管理しています。この回路基板には、データ処理用のチップや電源管理、インターフェースのコントローラー(例えばSATAやUSB)が含まれます。

その他の部品が機械的に故障していなくとも回路基板上に異常がある場合は、HDDは正常に動作しません。回路基板(PCB)に関連する障害では物理障害とも論理障害ともどちらとも呼べるものもあります。

ケース(シャーシ)

すべての内部部品は、外部からの衝撃や振動から保護するために、金属製または合成樹脂製のケース(シャーシ)に収められています。このケースは、デバイスの構造的強度を高め、精密機器にとって有害なホコリなどの異物混入を防ぎます。

ケースは密閉されていますが、温度変化に伴う気圧変化を調整するために、埃フィルタ付きの圧抜き開口部が設けられています。万一ケースが破損し密閉状態が失われると、異物が内部に混入し、HDDが壊れる可能性があります。

製品は特定の気圧条件下で使用されることを前提に設計されているため、気圧の低い環境ではヘッドがプラッタに接触しやすくなるリスクもあります。

データへのアクセスの仕組み

データの読み書きプロセスは次のように進行します:

  • 回転:データアクセスが始まると、スピンドルモーターがプラッターを高速で回転させます(一般的には毎分5400回転から7200回転、あるいはそれ以上)。
  • 位置決め:アクチュエータアームが読み書きヘッドを目的のトラック(プラッター上の同心円)に移動させます。この動作は「シーク」と呼ばれます。
  • 読み取り/書き込み:ヘッドが正しい位置に到達すると、データの読み取りや書き込みが行われます。読み取り時にはヘッドが磁気信号を検出し、それを電気信号に変換してコンピュータに送信します。書き込み時には、ヘッドが磁気信号をプラッターに適用してデータを記録します。

アクセス時間

ハードディスクのデータアクセス時間は主に二つの要素「シーク時間」と「回転遅延」によって決まります。

  • シークタイム:ヘッドが正しいトラックに移動するのにかかる時間のことです。
  • 回転遅延:ヘッドが目的のセクタ(トラック上の特定の領域)を読み書きするために必要なプラッターの回転待ち時間があります。

このようにハードディスクのデータアクセスは、物理的な動きに依存しており、これがデータアクセス速度に大きく影響しています。そのため、SSDのような可動部品のないストレージに比べてアクセス速度が遅くなりますが、大容量のデータ保存にはコスト効率が良いという利点があります。

水平磁気記録

水平磁気記録方式は、磁化膜に対して磁気異方性を水平に配置することで磁化を行う記録方式です。これは面内記録方式とも呼ばれ、1970年代から2000年代半ばまで一般的に使用されました。この方式では、磁界方向が隣接する磁区同士で向き合っているため、反発や吸引が発生し、高密度化が進むと磁力の減衰が問題となり、大容量化が困難でした。それでも、製造技術の成熟により、低コストで大量生産が可能でした。

垂直磁気記録

垂直磁気記録方式は、磁化膜に対して磁気異方性を垂直に配置することで磁化を行う記録方式です。当初、この方式の実用化は難しいとされていましたが、強磁性体や薄膜ヘッドの技術進歩により、実用化されました。垂直磁気記録では、磁気ビットが垂直に配置されるため、記録密度が大幅に向上します。これにより、ディスクの同じ面積により多くのデータを記録でき、HDDの容量が飛躍的に増加しました。また、ビット間の干渉が減少し、データの信頼性も向上します。

HDDの大容量化について

HDDの大容量化は現在も進行中であり、面密度、平均シーク時間、データ転送速度、回転数、重量などの改良が日々行われています。これを支えるのは磁気記録方式のテクノロジーの飛躍的進歩が後押ししています。具体的には、磁気ディスク装置の構造、磁気ヘッド技術、磁気ディスク媒体技術、HDI&メカサーボ技術の進化が挙げられます。これらの進化により、HDDは世の中に出てから数十年で飛躍的に性能を向上させてきました。

面記録密度とその限界

HDDの面記録密度は、bit/in²(ビット/平方インチ)=bpsiという単位で表され、数百G(ギガ)bpsiに達しています。現在の垂直磁気記録方式では、1000G=1Tbpsiが限界とされ、3.5インチHDDの1プラッタあたり1.35TBの容量が実現可能です。一般的な3.5インチHDDでは5枚のプラッタを搭載できるため、約7TBのHDDが製造可能となります。

垂直磁気記録方式の限界と新技術

市場には3.5インチで3TBのHDDが流通し、4TBの製品も登場していますが、これ以上の容量を実現するには新たな技術が必要です。垂直磁気記録方式では、面記録密度が高まるにつれ記録ビットが小さくなり、熱安定性を保つために保持力を大きくする必要があり、記録ヘッドの書き込み能力が不足する問題があります。

さらなる大容量化への取り組み

この課題を克服するために、様々な新技術が研究・発表・導入されています。例えば、熱アシスト磁気記録(HAMR)やマイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)などが注目されています。これらの技術は、記録密度をさらに高めることで、HDDの大容量化を実現しようとしています。これにより、将来的には10TB以上の容量を持つHDDが一般に普及することが期待されています。

このように、HDDの大容量化を目指す技術革新は今後も続き、私たちのデータストレージのニーズに応えるべく進化を遂げています。

プラッタ技術

パターンドメディア

パターンドメディアは、現在の磁性層にバラバラに並んでいる磁性粒子を規則的に整列させ、少ない磁性粒子群にデータを記録する技術です。究極的には、1つの磁性素粒子に1つのデータを記録することを目指しています。この方法により、データの記録密度を大幅に向上させることが可能です。

ディスクリートトラック構造

ディスクリートトラック構造は、隣接するトラックの磁気的な干渉を減らすために、トラック間に溝を掘り非磁性層を埋め込む加工を施した磁気記録構造です。これにより、データ記録トラック間を磁気的に切り離し、再生信号の雑音を低減します。この技術を使用することで、従来の媒体よりも記録密度を30〜40%向上させることができます。

組み合わせの効果

パターンドメディアとディスクリートトラック構造を組み合わせることで、記録密度を1Tbpsiに達成することが可能となり、これが現行方式の限界とされています。これらの技術は、データ記録の効率と精度を大幅に向上させることを目指しており、次世代の高密度記録媒体の基盤となります。

記録方式技術

マイクロ波アシスト磁気記録方式(MAMR)

マイクロ波アシスト磁気記録方式(MAMR)は、磁気共鳴現象を利用して記録媒体の磁化を局所的に反転させ、磁気情報を記録する技術です。この技術は2010年に発表され、約3Tbpsiの記録密度が可能とされています。これを単純計算すると、約20TBのHDDが実現可能となるでしょう。MAMRは、次世代の高密度記録技術として期待されています。

熱アシスト記録方式(HAMR)

熱アシスト記録方式(HAMR)は、レーザーで記録層を加熱しながらデータを記録する技術です。記録ビットの保磁力は温度上昇とともに弱まるため、レーザー光で記録ビットを加熱し、保磁力が弱まった瞬間に記録ヘッドの磁束でデータを記録します。この技術により、10Tbpsiの記録密度が可能となり、3.5インチHDDで約70TBの容量を実現することができます。HAMRは、データストレージの大容量化に大きく寄与する技術です。

ヘッド技術

トンネル磁気抵抗方式(TMR)は、ヘッドに電圧をかけることで、トンネル効果(電子が一定の確率で他のエネルギー壁を突き抜ける現象)を利用し、絶縁障壁層に電流を流します。強磁性膜の磁石の向きに応じて、絶縁障壁層に流れるトンネル電流の電気抵抗が変わる性質を活用し、信号の1と0を検出します。この技術は、精度向上や材質変更により、その効果が年々向上しています。

垂直面流れ-巨大磁気抵抗方式(CPP-GMR)は、TMR方式でヘッドの小型化により絶縁障壁層の電気抵抗が増加し、信号ノイズが増える問題を解決するために開発されました。CPP-GMR方式では、薄膜層に対して垂直に電流を流し、自由磁性層と固定磁性層の間に低抵抗金属層を設けることで、絶縁障壁層を使用せずに磁気抵抗効果を得ます。これにより、素子の抵抗を低減し、低ノイズ化と高周波応答性を実現します。GMR方式のヘッドはCIP(平面流れ)方式であり、かつての主流でしたが、CPP-GMRはその技術をさらに発展させたものです。

制御技術

HDDの制御部には、最新の技術革新が数多く盛り込まれています。まず、高速化に対応するための高性能回路が搭載されており、データ転送速度を大幅に向上させます。また、記録位置を最適化するための高度なアルゴリズムも導入されており、精度の高いデータ読み書きを実現しています。

さらに、消費電力を低減させながらパフォーマンスを維持する機能も重要です。これにより、エネルギー効率が向上し、環境に配慮した設計が可能となります。加えて、消費電力・ノイズレベル・振動を抑えるための技術も開発されています。これらの機能は、HDDの耐久性と信頼性を高めるだけでなく、静音性を向上させる効果もあります。

この課題を克服するために、様々な新技術が研究・発表・導入されています。例えば、熱アシスト磁気記録(HAMR)やマイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)などが注目されています。これらの技術は、記録密度をさらに高めることで、HDDの大容量化を実現しようとしています。これにより、将来的には10TB以上の容量を持つHDDが一般に普及することが期待されています。これらの技術的進歩により、HDDはますます高性能でエネルギー効率が高く、環境に優しいデバイスとして進化を遂げています。

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